社会保険の更なる適用拡大により、今月より常時51人以上の事業所も「特定適用事業所」とされ、短時間労働者でも要件を満たせば健康保険・厚生年金保険の加入対象となりました。(詳しくは2024年4月のコラムで解説しています)
労務管理の中で、このように従業員数によって対応が必要となる事項は他にもあります。そのうちのひとつに、安全衛生管理があります。
安全衛生管理の面では、従業員数が「常時50人以上」というラインで対応が必要となる事項がいくつかあります。
この機会に、従業員数が50人に近づいた際に準備しておきたい点を確認しておきましょう。
1.従業員数の「常時50人以上」とは?
社会保険の特定適用事業所となる場合の要件とは異なり、安全衛生管理で言う従業員の人数は、“事業場ごと”に判断し、パート・アルバイトや臨時の労働者、派遣労働者も含めて判断します。つまり、雇用形態にかかわらず、常態として50人以上の従業員を雇用する場合が対象となります。
なお、定期健康診断とストレスチェックの対象は上記と異なりますので、後述します。
2.産業医の選任
常時50人以上の従業員がいる事業場については、産業医の選任が必要となります。
選任後は遅滞なく、所轄労働基準監督署長への報告書を提出し、産業医の業務内容について、見やすい場所に掲示又は備え付けるなど、従業員への周知も必要です。
3.衛生管理者の選任と衛生委員会の設置
産業医と同様に、常時50人以上の従業員がいる事業場について、衛生管理者の選任が義務付けられています。
こちらも選任後に遅滞なく、所轄労働基準監督署長への報告書提出が必要です。
また、当該事業場に衛生委員会を設置し、毎月1回以上開催しなければなりません。衛生委員会では議事録を作成し、その概要を従業員へ周知することが義務付けられています。
なお、常時50人以上の従業員がいる事業場で、建設業や製造業など一部の業種については、安全管理者と安全委員会の設置も義務付けられています。該当する場合には合わせて対応が必要です。
4.定期健康診断の結果報告
常時使用する労働者については、1年以内ごとに1回、定期健康診断を実施する必要がありますが、対象者が50人以上となった場合には、「定期健康診断結果報告書」を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。
定期健康診断の対象従業員は、期間の定めのない契約をしている者、1年以上の雇用契約をしている者又は更新により1年以上雇用されている者であり、一週間あたりの労働時間数が通常の労働者の4分の3以上である者です。
5.ストレスチェックの実施
常時50人以上の従業員がいる事業場については、心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)の実施義務が発生します。(50人未満の事業場は努力義務となっています)
加えて、ストレスチェック及び面接指導の結果について「心理的な負担の程度を把握するための検査結果報告書」を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。
対象の従業員は、定期健康診断の従業員の範囲と同様です。
会社の成長と共に、従業員数が増えると事業主に求められる安全配慮義務の範囲も広がっていきます。常時50人以上の従業員を雇用する場合、特に従業員の健康に関する義務が増えていきます。
社会保険の特定適用事業所の認定と異なり、行政から通知されるものではありませんので、従業員数の推移を注視して、「常時50人」に近づいた際には早めに確認して体制を整えましょう。