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投稿日:2023年10月10日

厳格な運用が求められる変形労働時間制

変形労働時間制を適用し、複数のシフトパターンにより労働させているケースがありますが、就業規則にすべてのシフトパターンが記載されていなかったとして、変形労働時間制が無効とされた裁判例が出ています。以下では、変形労働時間制を運用する際の注意点をとり上げます。

■定めが必要な事項

変形労働時間制を採用する場合、以下の事項を、労使協定や就業規則等で、すべて定める必要があります。

①対象労働者の範囲
②対象期間・起算日
③労働日・労働日ごとの労働時間

各項目について、以下解説していきます。

①「対象労働者の範囲」

法令上、対象労働者の範囲について制限はありませんが、その範囲を明確に定める必要があります。

②「対象期間・起算日」

その期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲において労働させる期間をいいます。また、対象期間と起算日は具体的に定める必要があります。

【例】1ヵ月単位の変形労働時間制の場合
「毎月1日を起算日とし、1ヶ月を平均して、1週間当たり40時間以内とする」

対象期間は、1ヶ月変形の場合、1ヶ月以内の期間であれば、2週間や4週間とするこ とも可能です。1年変形の場合であれば、1ヵ月を超え、1年以内の期間で設定してください。

なお、1年変形には、労働日数の限度があり、原則として、1年間に280日となります。対象期間が1年未満の場合は、下記計算式で上限日数が決まります。

計算式 : 280日×対象期間中の暦日数÷365日(1年365日の場合)
対象期間が3ヶ月以内であれば、制限はありません。

ただし、前年度において、1年単位の変形労働時間制を協定している場合(以下、「旧協定」)、旧協定の1日または1週間の労働時間よりも新協定の労働時間を⾧く定め、および1日9時間または1週48時間を超えることとしたときは、280日、または、旧協定の労働日数から1日を減じた日数のうちいずれか少ない日数としなければなりません。

1年単位の変形労働時間制では、上記の対象期間中の特に業務の繁忙な期間を特定期間として定めることができます。たとえば、対象期間中、連続して労働させられる日数の限度は6日ですが、特定期間中は1週間に1日の休日が確保できる日数です。
なお、対象期間の相当部分を特定期間とすることは法の趣旨に反します。

③「労働日・労働日ごとの労働時間」

対象期間を平均して1 週間あたりの労働時間が40 時間を超えないためには、対象期間中の労働時間を、以下の式で計算した上限時間以下とする必要があります。

上限時間 = 1 週間の労働時間 × 対象期間の暦日数 / 7

なお、対象期間を1ヶ月以上の期間に区分することとした場合には、下記を定めればよいこととなっています。

・ 最初の期間における労働日
・ 最初の期間における労働日ごとの労働時間
・ 最初の期間を除く各機関における労働日数
・ 最初の期間を除く各機関における総労働時間

ただし、この場合でも、最初の期間を除く各機関の労働日と労働日ごとの労働時間については、その期間の始まる少なくとも30日前に、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合(ない場合には労働者の過半数を代表する者)の同意を得て、書面にて定めなければなりません。

■運用する際の注意点

複数のシフトパターンがある場合、就業規則には、代表的なものだけを記載しているようなケースや、様々なパターンに関する記載があるものの実態とずれていたり、実態はさらに細かいシフトパターンがあったりするようなケースがあるでしょう。

変形労働時間制が無効になった裁判例では、「原則として」と記載し、4つのシフトパターンを定めたのみで、すべてのシフトパターンを記載していなかったとして、労働基準法第32条2の「特定された週」または「特定された日」の要件を充足するものではないことから、変形労働時間制は無効であると裁判所が判断しました。

ひとつの裁判例であるものの、会社は、就業規則にすべてのシフトパターンの記載があるかを確認し、記載がなければ追加し、また、今後において、記載されたシフトパターン以外の時間で勤務しないように管理していくことが求められます。

変形労働時間制は、 特定した労働日、 労働日ごとの労働時間を会社の都合で変更することはできないとされています。会社の都合で変更するような誤った運用もみられることから、 適正に運用できているのかについても確認し、 問題があれば改善しましょう。

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